問題行動に「待った!」をかける:現場で本当に使える対応の優先順位

行動分析学・動物
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アニマルトレーナーの皆さん、日々のトレーニングお疲れ様です!

動物が望ましくない行動をした時、私たちトレーナーの対応の選択がその後の行動パターンを決定づけます。

「無視(消去)」と「弁別刺激(キュー出し)」どちらを優先すべきか?

…などなど、悩みは尽きないですよね。

この記事では現代のポジティブ・レインフォースメント(正の強化)を主軸とする現場において、効果的かつ倫理的に問題行動を修正するための5段階の対応優先順位とその行動原理を解説しています。

ケンさん(アニマルトレーナー)
アニマルトレーナー歴15年。
行動分析学を応用した近代トレーニングを実施しています。
「行動分析学は世界をより良くする」と信じ、日々発信しています。

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5つの対応:優先度の高い順

現場で問題行動を目の当たりにしたとき、私たちは反射的に動くのではなく以下の順序で最も効果的な手段を選択すべきです。

順位:対応方法目的
1位:SDの提示
(行動置換)
行動の根本的な置き換え
問題行動を実用的かつ望ましい代替行動に変換し、それを強化することで解決を図る
2位: SΔの提示行動の即時中断・抑制
行動を続けても報酬が得られないことを即座に示し、問題行動の継続を防ぐ
3位: 無視する行動の頻度減少
問題行動を維持している強化子を取り除き、将来的に行動が起こらないようにする
4位: ブリッジ不適当
望ましい行動をマークするツールであり、問題行動の直後に使うとそれ自体を強化してしまう
5位 :嫌子の提示(罰)原則禁止
恐怖や苦痛を与え、信頼関係の破壊、攻撃行動などの副次作用を生むため、避けるべき

現場で最優先すべきは「教える」こと:行動置換

1位:弁別刺激の提示(行動置換)

望ましくない行動への対応として最も推奨されるのは、その行動を単に「やめさせる」ことではなく「代わりとなる望ましい行動をさせる」ことです。

動物は何らかの目的(機能)のために問題行動(例:要求吠え)をしています。

トレーナーはその目的を達成するための別の行動(例:お座り)を要求するキュー(弁別刺激:SD)を提示します。

動物がキューに従ったらすぐに強化します。

ポイント

これは望ましい行動を教え、強化レパートリーを構築する「コンストラクショナル・アプローチ」の核です。

問題行動が「代わりの正しい行動」によって上書きされるため、再発防止にもつながります。

コンストラクショナル・アプローチ(Constructional Approach)とは

応用行動分析学(ABA)の分野における行動修正のアプローチの一つで、望ましい行動を積極的に「構築(建設)」することに焦点を当てた手法のこと

実践例

飛びつきが始まった瞬間に間髪入れず「お座り」のキューを出し、四肢が床についた瞬間に強化子(おやつや声かけ)を提示する。

行動を迅速に止めるためのシグナル:SΔ

2位:SΔの提示

まず前提として、問題行動をいたずらに長引かせるのは避けるべきです。

特にトレーナーの注目が問題行動の強化子となっている場合(例:要求吠え、興奮による甘噛み)、行動を迅速に中断させる必要があります。

  • 行動原理
    SΔ(エス・デルタ)とは「この刺激があるときは、この行動をしても報酬は得られない」ことを示すシグナルです。
  • 実践例
    吠え始めたら、即座に視線を外す、背中を向けるなど、注目という強化子を遮断する行動をとります。これは動物に「今やっていることは無効だ」と即座に伝える極めて実用性の高い中断技術です。

行動を長期的に減らすための手続き:消去

3位: 無視する(消去の手続き)

無視する(アクション無し)ことは、問題行動を支えている強化子を絶つ消去)という、長期的な行動修正の基盤です。

しかし、前述しましたが問題行動をいたずらに長引かせるのは避けるべきです。

消去の手続きを開始したとしても、必ずしも動物がすぐに行動をやめるとは限りません。

消去バーストにも注意しましょう。

消去バースト(行動の一時的なエスカレート)は避けられないため、無視を始めたら徹底してやり抜くことが不可欠です。この期間に少しでも強化子を与えてしまうと、かえって行動を強固にしてしまうリスクがあります。

トレーニングで避けるべき手段

4位:ブリッジ、5位:嫌子の提示

ブリッジの誤用

ブリッジ(クリッカー音や「よし!」などの言葉)は、「今」望ましい行動をしていることをマークするためのツールです。

問題行動の後に使うことは、その行動を強化してしまうため対応策としては不適当です。

嫌子の提示(罰)

叩く、怒鳴るなどの身体的・心理的な罰は、動物との信頼関係を破壊し、攻撃性や恐怖症、無気力(学習性無力感)などの深刻な二次的な問題を引き起こします。

プロのトレーナーは絶対に使用を避けるべき手法です。

まとめ:トレーナーが意識すべきこと

問題行動への対応は、単に「止める」ことではなく、「望ましい行動を教え、それを選ぶ機会を与える」ことが本質です。

望ましくない行動に直面した際は、まず「 代わりに何をさせるか?」を考え、次に「今すぐどうやって中断させるか?」を実施し、同時に「 強化子を与えない」を徹底してください。

この優先順位を守ることが動物福祉とトレーニング効果の両立につながります。

皆さんのトレーニングが動物にとって安全で成功体験に満ちたものとなることを願っています。

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