こんにちは! ケンさんです。
日常生活の中で「やめたいのに、なかなかやめられないな……」と感じる行動はありませんか?
もしかしたら、それは「意思が弱いから」ではなく、行動分析学で言うところの「消去抵抗」が関係しているのかもしれません。
今回はこの「消去抵抗」について、具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
これを知ることで、自分自身の行動や周りの人の行動をより深く理解できるようになりますよ!

ケンさん(アニマルトレーナー)
アニマルトレーナー歴15年。
行動分析学を応用した近代トレーニングを実施しています。
「行動分析学は世界をより良くする」と信じ、日々発信しています。
「消去抵抗」って、そもそも何?
行動分析学では、ある行動をした後に「良いこと」が起きたり、「嫌なこと」がなくなったりすると、その行動が増えると考えます。
これを「強化」と呼びます。
強化 :行動の出現頻度が上がること
正の強化:行動の直後に良いことがあって、行動の出現頻度が上がること
負の強化:行動の直後に嫌なことが消え去ることで、行動の出現頻度が上がること
例えば、
・おもちゃが欲しくて泣いたら、お母さんが買ってくれた
→ 泣くという行動が強化される
・自動販売機のボタンを押したら、ジュースが出てきた
→ ボタンを押すという行動が強化される
しかし、その「良いこと」や「嫌なことがなくなること」が、ある時からパタッと起きなくなったらどうなるでしょう?
行動分析学では、この手続きを「消去」と呼びます。
「じゃあ、すぐにその行動はなくなるの?」と思いますよね。
ところが、そう簡単にはいかないんです。
これまで強化されていた行動は、強化されなくなってもしばらくの間しつこく続いてしまうことがあります。
この「しつこさ」こそが、今回ご紹介する「消去抵抗」なんです。
消去抵抗は、「なかなか行動が消えない粘り強さ」や「消えるまでにどれくらいの時間や回数がかかるか」を示すもの、と理解してくださいね。

身近な「消去抵抗」の例を見てみよう!
言葉だけだと少し難しいかもしれないので、いくつか例を見てみましょう。
例1:ジュースが出てこない自動販売機
皆さんがいつものように自動販売機でジュースを買おうとボタンを押しました。
でも、なぜかジュースが出てきません。
一回押して出てこなかったら諦めますか?
多くの人は、もう一度ボタンを押したり、お金を入れ直したり、軽く機械を叩いてみたりするのではないでしょうか?
これまで「ボタンを押せばジュースが出る」と強化されてきたからこそ、すぐに諦めずに別の手を試したり、しつこくボタンを押したりしてしまうのです。
これがまさに消去抵抗です。
例2:子どもと「おねだり」の攻防
小さなお子さんがいる家庭ではよくある話かもしれません。
子どもがおもちゃを欲しがって大声で泣き叫び、それを見かねた親がたまにおもちゃを買ってあげていたとします。
ある日、親が「もう、おねだりで泣いてもおもちゃは買ってあげない!」と決意しました。
さて、子どもはどうなるでしょう?
すぐに泣き止むでしょうか?
答えはNOです!
多くの場合、もっと激しく泣いたり、床にひっくり返ったりするなど、「今まで以上に」泣き叫ぶことがよくあります。
これは、これまでの経験から「泣けば手に入るかもしれない」という期待が強く、すぐにその行動を諦めない消去抵抗の現れです。

消去抵抗の強さは「強化のされ方」で決まる?
消去抵抗の強さを左右する大きな要因の一つに、これまで「どのように強化されてきたか」という点があります。
毎回強化されていた場合(連続強化)
「ボタンを押せば必ずジュースが出る」のように、行動するたびに毎回強化されていた場合、強化が止まると比較的早く行動は消えていきます。
なぜなら、「もう出ないんだな」とすぐに気づきやすいからです。
たまにしか強化されていなかった場合(部分強化・間欠強化)
パチンコやスロット、釣りのように、「たまにしか当たらない」「粘っていれば、いつか報われる」といった形で強化されてきた行動は、非常に強い消去抵抗を示します。
これを「部分強化効果」と呼びます。
なぜなら、たとえしばらく強化が得られなくても「次はもしかしたら当たるかもしれない」「今までもたまにしか当たらなかったし、今もその“たまに”の状態なのかも」という期待が続きやすいからです。
先ほどのおねだりの例も、毎回買ってあげていたわけではなく「たまに」買ってあげていたからこそ、子どもの消去抵抗が強くなったと考えられます。
「消去バースト」を乗り越えよう!
消去抵抗を理解する上で、もう一つ知っておきたい現象が「消去バースト(extinction burst)」です。
これは、消去の手続き(強化をやめること)を始めた直後に、一時的に問題行動の頻度や強さ、持続時間がぐんと増したり、新しい問題行動が出現したりする現象のことです。
先ほどの子どものおねだりの例で言えば、「泣いてもダメ」と決めてから、一時的に今まで以上に激しく泣き叫ぶのがまさに消去バーストです。
「今までこれでうまくいったのに、なんで通じないの!?」という、いわば「最後の悪あがき」のようなものです。
この消去バーストの時期は、行動を消去しようとする側にとっては一番辛い時期かもしれません。
でも、ここで諦めずに乗り越えることができれば、最終的に行動は減少に向かっていきます。
まとめ:消去抵抗を理解して、行動をデザインしよう!
「消去抵抗」について、少しは理解が深まったでしょうか?
- これまで強化されてきた行動は、強化がなくなってもすぐには消えない
- 特に「たまにしか強化されなかった行動」は、消去抵抗が強い
- 行動を消去しようとすると、一時的に行動が悪化する「消去バースト」が起こることがある
これらの知識は、自分のやめたい習慣(例えば、SNSのダラダラ見や夜更かし)をなくしたり、子育てや教育、職場の人間関係の中で、望ましくない行動を減らしたりする際に非常に役立ちます。
「やめられないのは自分の意思が弱いからだ……」と悩む前に、ぜひ行動分析学の視点から、その行動がどのように強化されてきたのか、そしてどれくらいの消去抵抗があるのかを考えてみてください。
きっと、行動をデザインするためのヒントが見つかるはずです。
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